副社長は花嫁教育にご執心





「いいですよ、適当にタオルで拭けば寝てる間に乾くし」

「ダメだ。そんなだからお前の髪は艶もコシもないんだ」

「うっ……」

「自分でやるのが面倒なら俺がいるときは俺がやる。嫁の髪は触り心地がいい方がいい」

灯也さんと交代でお風呂に入った後のリビング。床のラグにちょこんと座った私の耳に、ブオオオ、と温風が当たる。

すぐ後ろのソファに座る灯也さんの膝が両脇にあって、彼の体全体に囲われたような体勢で、髪を乾かしてもらっているのだ。

ふんわりと軽めのボブヘアの毛先には、彼も愛用しているのだといういい香りのヘアオイルをつけてもらい、大きな手に何度も髪を梳かれる感触は、なかなか悪くなかった。

まぁ、嫁として愛でられているというよりは、トリミングされてる犬か猫の気分って感じだったけど。

あとで歯磨きのため鏡を見に行ったら、いつもより毛先がくるんと綺麗に内巻きになって、乾いているのに潤いを感じる艶があった。

世の女性たちは毎日自分でこんなお手入れをしているのか……と感心しながら、彼の待つ寝室へ。


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