副社長は花嫁教育にご執心
第三章
職場の逆風
翌日。灯也さんが一斉メールで知らせてあるとはいえ、一緒に出勤となるとさすがに周りの目が気になって、従業員用の駐車場で私だけ先に車から下ろしてもらった。
ひとりそそくさと通用口に入り、ロッカー室へ。
早めに出てきたので自分以外誰の姿もないことにホッとしつつ、制服に着替える。その途中で、ほかの誰かが出勤してきたらしく扉がノックされた。
「はーい」
エプロンの紐を結びながら返事をすると、入ってきたのは仲良しの同僚、藤田久美(ふじたくみ)ちゃんだった。
職場の同僚には基本年上のパートさんが多いのだけど、彼女は同じ社員であり年も偶然同じなため気も合い、愚痴なども言い合う仲だ。
「おはよう」
三つ隣のロッカーを開ける黒髪のストレートロングに、いつも通りあいさつした。
「おはよ。……ねえねえ、今日支配人と一緒に来たでしょ」
けれど久美ちゃんの方は挨拶もそこそこに、“私知ってるんだから”とでもいいたげな意味深な笑顔で、さっそく突っ込んできた。
わー、やっぱり、見ていた人がいたか……。でもまぁ久美ちゃんになら、いっそ正直に話しちゃったほうがいいかな。