副社長は花嫁教育にご執心


納得できずに頭を悩ませていると、ホールからバックヤードに戻ってきた久美ちゃんが私とパートさんに向けて言う。

「いつまでもここで考えても仕方ないよ。ほら、他の料理も出てるし仕事しないと」

……そう、だよね。お客さん、待たせちゃうし。

久美ちゃんがスタッフに色々と指示を出す間、私はモヤモヤしたものを抱えながら天ぷら御膳のマイナス処理をした。

そして、間違って大量に天ぷらを揚げさせられ、不愉快マックスという雰囲気の厨房スタッフに頭を下げた。

「食材もタダじゃねえんだからさ、気を付けてよ」

以前まかないのカツ丼を作ってくれた、五十代の男性料理長に注意され、私はとにかく深々と頭を下げる。

「はい! すみません……」

「まったく、今まで真面目な子だと思ってたのに、設楽グループの御曹司に気に入られるとやっぱり舞い上がっちゃうもんかねえ」

誰にともなくぼやいた彼の発言に、お辞儀したままの頭をなかなか上げることができなかった。

私が何かミスするたび、おそらく多くの同僚たちがそう思っているのだろう。

あの冴えない野々原まつりが、何を間違ったか支配人と婚約してもらえたがために、頭の中がお花畑状態。

そのせいで連日ミスをやらかす迷惑なヤツだって。

そりゃ、身に覚えのあるミスなら私もちょと浮かれてるのかなって反省するけど……心当たりがないのがモヤっとするんだよね……。


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