副社長は花嫁教育にご執心


……まさか、入力者が私だったから?

パートさんの冷たい表情や、料理長に掛けられた言葉を思い出し、嫌な予感を抱かずにいられなかった。

もしかして、悪意があってわざと確認しなかったのだろうか。

だって、何度も言うけれど、今回のミスは自分自身にまったく心当たりがない。

忙殺されて記憶があいまいだとかそんなレベルじゃなく、本当に身に覚えがないのに、私の名前でオーダーが入っていて……やだ、なんか気味が悪いよ。

「まぁ、出来上がってしまったものは仕方ない。誰かに取りに行かせるから、ワゴンに乗せておいてくれ」

「はい……わかりました」

私の浮かない声に、灯也さんが渇を入れる。

「気を落としてる暇があったら、再発防止に努めろ。デシャップの教育も改めて徹底」

「は、はいっ」

“支配人”としての彼に言われて、背筋が伸びる。

そうだ、落ち込んでいる場合じゃない。私たちのミスで困るのはお客様だ。久美ちゃんにも相談して、何か打つ手を考えよう。

電話を終えて仕事に戻り、やがてランチタイムの波が引いてくると、私が相談するより先に久美ちゃんが声を掛けてきた。

バックヤードの隅で、パートさんに聞こえないよう小声で話す。


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