副社長は花嫁教育にご執心
おかえり
「えっ。もう出てくの?」
「うん。だって荷物も少ないし、遊太だって早くひとりになった方が気楽でしょ?」
仕事を終え、アパートに帰宅した私はさっそくトランクに衣類や化粧品を詰め込んでいた。
「まぁ、そうだけど……ずぼらな姉さんが、そんなに早く他人と暮らしたいっていうのが意外。もしかして、もう昨夜設楽さんに食われたとか?」
「はっ?」
何を言ってるのこの子は。思わず動揺して振り返った私を見て、遊太がにやりと笑う。
「その反応じゃまだだね。でも大丈夫だよ、設楽さん優しそうだし姉さんを開発することすっごい楽しみにしてそうだったから」
か、開発って何……? 意味はわからないけど、恥ずかしいニュアンスなのは間違いない。
「そ、そういうことは遊太には関係ないでしょ! 私、もう行くから!」
「はーい。なんか困ったら連絡してね。そうだ、ちゃんとゴムは持っ――」
「行ってきます!」
ばかばか、遊太ってば……。これから灯也さんの家に行くっていうのに、変な話するから緊張してきちゃうじゃない。