副社長は花嫁教育にご執心
「この頃はどこにいるんだっけな。たいして時差のないとこだったはず……」
私の動揺ぶりに構わず、灯也さんがテーブルの上のスマホを手にしてさっそく電話をかけ始める。
相手は設楽ホテルズグループの社長と社長夫人……。やばい、心臓が胸を突き破って飛び出しそう。
「あ、親父? 俺だけど……ああ。今月の売上げも上々。クリスマスに年末年始もあるし、最高額を更新するかもな」
さっそくお父様とお話ししている……。とりあえず、仕事の話みたいだけど……。
「わかってるって。それより、報告があるんだ。俺、結婚するよ」
私がハラハラしている間に、灯也さんはなんの躊躇いもなくサラッと宣言した。
どど、どんな反応が返ってくるだろう……。
私に電話の向こうの声は聞こえないけれど、次に灯也さんがなんと言うのかで、お父様の反応が少しわかるだろうか。
「うちのレストランの従業員。歳は……二十五とか言ってたかな。でも、俺の知ってる二十五の女とはだいぶ違う。擦れてない、心のきれいな子だよ」
スマホを耳に当てながら、優しい瞳がちらりとこちらを一瞥し、胸がきゅうと鳴った。
灯也さん……。私のこと、そんな風に思ってくれてたの?
「うん。ああそうなんだ。じゃあ、彼女とはその時にゆっくり話せるんだな。わかった。母さんにもよろしく言っといて」