副社長は花嫁教育にご執心
そんなことを考えていたら休憩室のドアがノックされ、まさか灯也さん……?と、ほんのり胸にときめきを感じたけれど。
「小柳です。失礼します」
扉を開けて入ってきたのは、灯也さんの片腕である副支配人の小柳さんだった。
中性的な顔にフチなし眼鏡、線の細い体型が特徴で、灯也さんとはまた違うイケメン。そんな彼の手には、見覚えのある紙が握られていた。
「こちら記入が済みましたが、設楽が本社で役員会議中なもので、奥様の方にお渡ししてもよろしいでしょうか」
「あ、はい!もちろんです! この度は証人になってくださってありがとうございました」
慌てて箸を置き、まるで賞状を受け取るかのように、彼の差し出す婚姻届を両手で受け取った。
「いえ、お気になさらず。僕にとっては設楽が結婚してくれた方が都合がいいので」
にっこり微笑んだ小柳さんの発言の意図がわからず、首を傾げる。
「都合がいい?」
「ええ。設楽は恋敵なもので」
「こっ……恋、敵?」