副社長は花嫁教育にご執心


素っ頓狂な声を上げた私に、小柳さんは淡々と説明を加える。

「僕の想い人が、設楽を想っているのです。ま、よくある三角関係です」

よ、よくあるんですか? それ。恋愛方面に疎い私にとっては、漫画やドラマ以外でお目にかかったことがないのですが。

……というか。私以外に灯也さんを想う女性がいる可能性自体、今まで全然考えたことがなかった。でも、よく考えたら不思議でも何でもない。

身長は高く、大人の色気と少年っぽさをの両方を兼ね備えた美形な顔立ち。

設楽ホテルズグループの副社長という地位にふさわしい、知性と行動力があって。

なにより、ふと垣間見せる優しさに、私はは何度も胸をときめかされている。

……そんな魅力的な人だもの。他の女性だって、放っておくわけがないよ。

今さらながらそんなことに気付き、胸がちくっと痛んだ。そんな私の浮かない表情に気付いた小柳さんが、勝手なことを言い出す。

「ですから婚約者なんて立場では危ういので、さっさと籍を入れてしまってください。なんなら子どもを作ってくだされば、なおありがたい」

な、何を言うのこの人は……。そんなのかなり先の話です。

子どもは愛の結晶だなんてよく言うけれど、今はまだその“愛”を育んでいる最中なんだから。


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