副社長は花嫁教育にご執心


小柳さんは私のそばの椅子を引き、詳しく話してくれた。

灯也さんが大学時代、その杏奈さんという女性を好きだったということ。

ふたりは両想いだったけれど、杏奈さんには親の決めた結婚相手がいて、彼らが結ばれることはなかったこと。

そして現在、愛のない結婚をしたからなのか、杏奈さんは旦那さまと離婚したこと……。

彼女は灯也さんにその傷を癒してほしいらしいけど、小柳さんはそれを阻止するつもりなのだそうだ。

当時の小柳さんは、杏奈さんの結婚の件と、友人である灯也さんの気持ちを考えすぎて自分を殺してしまった。

だから、今度こそ自分が彼女を支えたい。

それに加えて、今の灯也さんには私という婚約者もいて、あの頃とは状況が変わっている。

それを彼女によくわかってもらうためにも、旅行に同行してほしい。小柳さんは切実にそう話し、深々と頭を下げたのだった。





「ただいま」

その夜、灯也さんが帰宅したのを確認すると、全身に緊張が走った。

旅行のことは、灯也さんも小柳さんに誘われているだろう。

それを本人からどんな風に伝えられるのか、杏奈さんのことは語られるのか。

あれこれ考えすぎてずっと悶々としていたのだ。

「お、おかえりなさい! 今日は本社に行っていたんですよね、どうでした?」

それでもなんとか笑顔を張り付け、玄関で灯也さんを出迎えた。


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