副社長は花嫁教育にご執心
「あれ、何で知ってるんだ?」
「小柳さんに、聞いて……あ、そうだ! 婚姻届、戻ってきましたよ」
自分で小柳さんの名前を出しておきながら、彼と長く話し込んだことは灯也さんには明かせないよなと気づき、咄嗟に話を変える。
なんだか後ろめたいけれど、仕方ない。
「さすが仕事が早いな。じゃあ、弟さんの方はまつりに頼んでもいいか?」
「はい、次の休みに書いてもらってきます」
「謄本とかの書類も着々と揃えないとな」
私の内心など知る由もない灯也さんは、当たり前だけどいつも通り。
リビングでスーツの上着を脱いで、着替える前に少しソファで休んで。今日一日世間あった出来事を確認するように報道番組をざっと眺めた後、一旦寝室に入って楽な服装になる。
そうしてスウェットにTシャツ姿でリビングに戻ってきた彼がまたソファに落ち着く。
私はその後ろ姿を見て、“今がチャンス?”と心の内で呟きごくりと唾を飲んだ。
彼の口から旅行の話が出るまで待ってそわそわしているなら、いっそこっちから聞いてしまおうか……もちろん、杏奈さんの名前は出さずに。
私は勇気を出して彼の隣に腰掛け、何でもないような軽い調子で話しかけた。