副社長は花嫁教育にご執心
「小柳さんに、聞きました。旅行のこと」
「……ああ、来週末で急なんだけど、まつりもたまたま休みみたいだな。椿庵でシフト見せてもらった」
「はい。翌週が土日とも勤務なので、お休み入れてもらえたみたいです」
にこりと微笑みながら、灯也さんは断るつもりはないんだとわかり、複雑な気分だった。
以前好きだった人と、婚約者を会わせる。それってどういう心境なんだろう。
私が杏奈さんのことを知っているとは思ってないから、彼女のことはひとりの友人として紹介するつもり?
それとも、離婚した彼女のことが心配で、どうしても会いたくて、とか――。灯也さんは何も言っていないのに、つい嫌な方向へと考えてしまう。
婚約者という立場なんだから堂々としていればいいのかもしれないけど、私たちには“婚約”に至るまでの歴史がなさすぎて、自信が持てない。
「あの……灯也さん」
「ん?」
「灯也さんは、どうして私をお嫁さんにしようと思ったんですか?」
なんでもいい。なにか、私の心を安心させる言葉が聞きたい。そんな望みを抱き、灯也さんを見つめる。
「どうした、藪から棒に」
「いえ、あの……籍を入れる前に、ちゃんとそういう理由がわかってると、夫婦になる心持ちもまた違うかなって」