副社長は花嫁教育にご執心
男の人に対してこんな感情を抱くこと自体、私にとっては未知の世界というか新しい発見というか……とにかく毎日が新鮮で。
こんな気持ちを教えてくれた灯也さんの前では精いっぱい、あなた好みの嫁でありたいなって思うんだ。
「……あのさ」
「はい」
返事をしたそばから、ぎゅっと抱きしめられた。それから灯也さんの唇が私の耳に触れ、内緒話のようにかすかな声が言う。
「まつりの経験値とか無視して、今ここで思い切り抱いちゃいたいほどに嬉しい」
「そ、それはよかっ……いや、よ、よくない、です!」
ガバッと彼の体を引きはがすと、灯也さんは本気ではなかったのか余裕の笑みで微笑んでいた。
「なんだ、騙されてくれればよかったのに」
「……ああ、危なかった」
思わずそう呟いた私にふっと笑って、灯也さんがまた話し出す。
「じゃあ次は、今度は俺の番だな。俺は――」
しかし言いかけたところで、テーブルの上に会った彼のスマホが音を立てたために話は中断されてしまった。
灯也さんは気持ちを切り替えるように長めに息を吐き出して、優しい瞳で「待ってて」と告げると、スマホを手に取った。