副社長は花嫁教育にご執心
「じゃあ、杏奈さんのことも直接問いただしてみればいいの?」
「うーん……できればね。でもどうせその女の人と、週末に軽井沢で会えそうなんでしょ? だったらそれまでは様子見して、会ってから直接バトルすればいいじゃん」
「バトルって……」
まだどんな相手かもわからないのに、そんな修羅場を迎える覚悟は到底できない。
「いいんだよ。嫁は姉さんなんだから堂々としてれば」
「嫁……」
私は小さく呟き、コタツの上に出ている婚姻届を、ちらりと眺めた。記入欄は遊太に書いてもらうのが最後だったため、あとは提出するだけ。
役所で受理されれば、私と灯也さんは本物の夫婦になるんだ。……もう、本当にあと一歩だ。
「ありがと遊太。ちょっと元気出た」
「ならよかった。まぁもし浮気されたら、設楽ホテルズグループ破産させるくらい慰謝料ふんだくればいいよ」
「……遊太、アンタって子は」
とことん抜け目のない弟に感心するやら呆れるやら。
でも、ひとりだとつい悪い方向に考えて落ち込んでしまうから、誰かがそうやって茶化してくれるくらいがちょうどいいのかもしれない。
そんなことを思いながら、私はテーブルの上のみかんに手を伸ばした。