副社長は花嫁教育にご執心
「なんですかこの電気。取り調べごっこができるとか?」
「誰がそんなマイナーな遊びするんだ。本を読むための読書灯だろ」
ついテンションが上がって、座席の脇に取り付けられた小さな首の長いライトを手に目を輝かせてみたけど、灯也さんに冷たくあしらわれてしゅんとなる。
そりゃ私だって、本当はもっと宿泊先のこととか、今日集まるメンバーのことを聞いてみたい気持ちはある。だけど、それがもし地雷だったらと思うと怖くて、上滑りな会話ばかりが、口をついて出てしまうのだ。
「……車内販売が来たら、ビール飲んでもいいですか?」
「ビール? これから滑るのに危ないし、楽しみは夜の宴会に取っておけよ」
それはわかっています。でも、どうしても今、自分に景気をつけたいんです。
「……危なかったら灯也さんが助けてくれれば」
「あのなぁ、そういう問題じゃない。っていうか、どうしてそこまで飲みたいんだよ。普段から別に一滴も飲まない日だってあるだろ」
心底不思議そうに聞かれて、うまい答えが思いつかなかった。私は俯いて、仕方なく折れることにする。
「……すみません。我慢します」
「そうしろ。夜はどんなに泥酔したって、俺が介抱してやるから」
俯いた顔を優しい瞳に覗かれて、ああ灯也さんってずるいなと思う。不安にさせたかと思えば、優しくして。私の心をつかんで離してくれないんだから。