副社長は花嫁教育にご執心


一時間と少しの新幹線の旅はあっという間で、私と灯也さんは軽井沢の駅に降り立った。天気は快晴。

東京よりも気温は低いけれど、空気は澄んでいるし何より周囲の真っ白な雪景色がきれいで、駅から出た歩道橋のところでしばし山を眺めて感動に浸った。

「うーん、来ちゃった~って感じですね」

「俺は早く滑りたくて体がうずうずしてるよ」

「私も早く見たいな。灯也さんの滑るとこ」

「ふうん……惚れ直すなよ?」

灯也さんがニッと口角を上げ、不敵な笑みを作る。そんな自信過剰な態度も、彼がするとサマになってしまうから悔しい。

……そんなの、惚れ直すに決まってますよ。そう心の中だけで呟き、灯也さんとお互いに手袋をした手をつないで、タクシー乗り場へ向かった。

目的地はスキー場近くのホテルで、小柳さんやその他のお仲間ともそこで待ち合わせている。

あまり大きくはない隠れ家的ホテルで、建物は白を基調にした北欧デザインの可愛らしい外観だった。

「さっき連絡あったけど、俺らが最後みたいだ」

「ホントですか? じゃあ早く行かないと」

タクシーを降り、正面玄関へと向かおうとした私の手を、灯也さんがつかんで引き留める。

「……灯也さん?」

「あのさ、まつり」

名前を呼んてくれたのはいいものの、その先の言葉をなかなか継がない灯也さん。

言いにくそうに私から視線をそらし、けれど少し迷ったのちに、私をきちんと見つめてこう言った。

< 70 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop