副社長は花嫁教育にご執心
「もー杏奈ってばホテル来てからずっとこんな感じでさ。灯也、ちょっと話聞いてあげてくんない?」
「いいけど……聞くならまつりも一緒に」
「まつりさんは私が面倒みるから! ねえまつりさん! あっちのカフェで話そう~」
ポニーテールさんになかば無理やり背中を押され、ちょっと!と思いながら灯也さんの方を振り返る。
けれど彼はすでにこちらを見ておらず、泣き出した杏奈さんと、静かに向かい合っていた。
め、めちゃくちゃワケアリそうに見えるけど……大丈夫だよね。
さっき決めたじゃない。灯也さんのことを信じようって。灯也さんは、友人として彼女の話を聞くだけだ。
*
「杏奈ってさぁ、広瀬リゾートの社長の一人娘なんだよね」
「広瀬リゾート……聞いたことあります」
ホテル内のカフェに移動し、ポニーテールさんもとい新庄和香子(しんじょうわかこ)さんが、杏奈さんの人物像を教えてくれる。
広瀬リゾートは灯也さんの会社とは同業でいわば商売敵であるため、杏奈さんと灯也さんの交際は周囲の反対にされ、杏奈さんは親が決めた相手と結婚するしかなかったという。
和香子さんの話は事前に小柳さんに聞いていたものとほぼ同じではあったけど、より詳しく話してくれたので思わず聞き入ってしまった。