副社長は花嫁教育にご執心


「聞いたところ、あなたたちまだ籍は入れてないそうじゃない。あぶないわよ~、あの子もともとしたたかだし、今ちょっと精神的に病んでるから、どんな手でも使いそうだもん」

そ、そんな……。あの、はかなげに涙を流していた杏奈さんが、そんな恐ろしいことを考えているの?

さぁっと青ざめる私に構わず、和香子さんはドライな調子で告げる。

「まぁ私は第三者だし、黙って見守らせてもらうよ。あ、ほら、迎えがきたよ」

カフェの入り口を振り返った和香子さん。そこには灯也さんがいて、何か勘ぐったような目をしながら近づいてくる。

「和香子、まつりに変な事吹き込まなかっただろうな」

「やだ、ぜーんぜん。楽しいガールズトークに花を咲かせてただけよ?」

にっこり微笑む和香子さん。なかなか演技派だ……。感心していると、灯也さんの疑う視線が今度はこちらに向く。

「まつり、ホントか?」

「あ、ええと、はい……」

「ならいいけど。そろそろゲレンデ行くってさ。着替えよう。まつりのウエアも用意してもらってるんだ」

灯也さんの言葉にうなずいて立ち上がり、あ、お会計……と気づいた時には和香子さんが伝票を手にウィンクしていて、私はすみませんと会釈した。

申し訳ないけど、コーヒー全然飲んでないし、彼女の嘘にも付き合ってしまったことだし……まぁいいか。


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