副社長は花嫁教育にご執心
「ごめんな。杏奈がちょっと暴走気味なのは電話で話した時からわかってたんだけど、うまく断れなかった。実は、ホテルに着いて、まつりが和香子とカフェに移動したあの時、杏奈に言われたんだ。“このまま孤独だったら、死んじゃうかも”……なんて、すごい思いつめた顔でさ。だから、できるだけ刺激しないように接しなきゃって、必死で」
あの時、ふたりはそんな話を……。灯也さんが彼女に毅然とした態度が取れなかったのはそのせいだったんだ。
でも、いくら何でも“死ぬ”だなんて……。
「まつり、俺が昔杏奈のこと好きだったって話も聞いてるよな?」
「あ、はい……小柳さんから」
「その当時、杏奈が他の男と結婚するって聞いても、だったら俺が奪う……とか言えるほどの覚悟も自信もなくてさ。時間が経つにつれ杏奈に対する気持ちは自然に薄れたけど、どっかで罪の意識みたいなのがあった。だから、“死ぬ”って言われて知らん顔はできなかったんだ」
暗い表情で、灯也さんが「でも」と続ける。
「さっき和香子と小柳に、そんなの杏奈の嘘だから、真に受けるなと叱られた。友達の心配し過ぎて、一番大事な人傷つけてどうするんだって。……ホント、その通りだよな」
ふわりと、大きな手のひらが私の頭を撫でる。でも、私は少し考えてから彼の目を見て「違います」と言った。