副社長は花嫁教育にご執心
「杏奈さんの言ったことが嘘かどうかわからない状態では、ああするしかなかったと思います。私は、灯也さんがそんな優しい人で良かった」
だって、本当にもしものことがあったとしたら、灯也さんはなんでそばにいてやらなかったんだろうってきっと後悔する。
結果的には嘘だったけど、杏奈さんときちんと向き合った灯也さんの行動は、正しかったと思うんだ。
「まつり……」
灯也さんは私の言葉に目をはっと見開いた後、愛しそうに瞳を細める。
お互いの視線が絡んで、引き寄せられるように唇が合わさりそうになった直前。
私は「あ」と声に出し、大事なことを聞いてなかったと思い出す。
「あの、さっき……」
「ん? さっき?」
「その、杏奈さん……ハダカ、だったみたいでしたけど……」
話を聞く限り、灯也さんが私を裏切ったなんてことはないと思うけど、きちんと本人の口から否定してほしい。そう思って、彼を見つめる。
「ああ……あれか。ベッドに誘われたよ。一糸まとわぬ姿で」
や、やっぱり……! あのジョロウグモめ……っ!
杏奈さんには同情心を抱く部分もあるけれど、灯也さんをそんな風に誘惑していたとあっては、私も穏やかじゃいられない。