副社長は花嫁教育にご執心


「そ、それで……?」

「そんな顔しなくても、何もしてないよ。……俺が抱きたいのは、まつりだけ」

後半部分を甘い低音で囁かれ、熱がぶわっと上がっていくのを感じる。

ああもう、言葉ひとつでこんなに恥ずかしいのに、自分から灯也さんを押し倒して誘惑するなんて、とうてい無理な話だったよ。

でも、今はそんなことしなくても、彼の心がまっすぐ私に向いているのがわかったから、充分幸せだ。

「私……熱が出てよかったな」

「なんで?」

「今夜は、灯也さんをひとりじめにできるから」

私のセリフに灯也さんはちょっと顔を赤らめて、穏やかに笑った。

「……いいんだよ。まつりは、いつだって俺を独占してくれて」

それから、長い睫毛を伏せた彼が顔を近づけてきたけれど、私はまたしてもキスの寸前で口を開く。

「と、灯也さん、風邪が……」

「うつるって? それでまつりが元気になるならいいよ。今度は逆に看病してもらえるしね」

弾んだ声で言われても、“看病”とやらは“家事”と似たものを感じるので、得意分野ではないのですが。


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