副社長は花嫁教育にご執心


泣きはらした顔の杏奈さんが部屋までお見舞いに来てくれたのは、翌朝のことだった。

灯也さんに迎えられて部屋に入ってきた彼女は、ベッドのそばまでくると椅子に腰かけた。灯也さんは少し離れた場所で、立ったまま私たちを見守っている。

「まつりさん、私……ごめんなさい。あなたと灯也の仲を、壊そうとしました」

単刀直入に告白し、深々と頭を下げる杏奈さん。きれいな黒髪がさらりと彼女の顔を隠す。

「いいんです。結果、壊れませんでしたから」

上半身を起こしてそう答えると、顔を上げた杏奈さんはまたしても瞳を潤ませる。

え、ど、どーして! 私、何も悪いこと言ってなくない!?

「ううっ……婚約者さん、性格いい……」

「へっ……?」

「私、ここへ来たら絶対あなたに罵られまくって、平手打ちのひとつくらいされるんだろうと思ってたのに……。誰かに愛されたいなら、やっぱり私、曲がった根性から直さないといけないみたいです……そのことがよくわかりました」

ちょっと話しただけなのに、杏奈さんは色々とひとりで勝手に悟ったらしい。

なんだか不思議な人だなぁ杏奈さん。昨日はジョロウグモとか思ってしまったけど、そこまで憎めない人なのかも。根性曲がってる自覚はあるみたいだしね……。

そんなことを思っていると、部屋のドアがノックされまた新たな来訪者が。


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