副社長は花嫁教育にご執心
「杏奈。これでわかっただろう。お人好しはお人好し同士。腹黒い者は腹黒い者同士が合うのだと」
入ってきたのは小柳さんで、中指で眼鏡を押し上げながら、よくわからないことを言っている。
「うるさいわね小柳。言っとくけど、アンタには一生なびかないから」
「じゃあ昨夜の情事は何と説明を?」
じょ、情事……!? こ、このふたり、いつの間にそんなことに!
「ちょっ! なにしれっと暴露してんの! あんなのちょっとほだされただけでしょ!」
「だったら赤面する理由はないだろ? ……いいか杏奈、俺ほどの一途な男はいない。いい加減に落ちろよ」
おお、小柳さん、男前なセリフ……!
そういえば、灯也さんと杏奈さんが両想いだった大学時代から、小柳さんは彼女をずっと想い続けているんだっけ。
ということは八年以上も……? 確かに、生半可な気持ちじゃできないことだ。
杏奈さんも少しは心動かされたのか、不本意そうにしながらも最後にはこう言った。
「……わかったわよ。じゃあ一週間“お試し”ね!」
「フッ。試されるのはどっちだろうな」
「そっ、そういうこと言うなら付き合ってあげないから!」
喧嘩なのかじゃれ合いなのかよくわからない会話をしながら、ふたりはやがて部屋を出て行った。