副社長は花嫁教育にご執心
ホテルからタクシーで駅の方へ向かう途中に、そのジュエリーショップはあった。
路肩に雪の積もる大通りの角地に立ち、ガラス張りの高級感あふれる外観に、私はしばし口を開けてぽかんとしてしまった。
「お前、アクセサリーとか、買ったことないのか?」
「愚問ですね。忘れていませんか? 私の女子力の低さを……」
本当は一度も買ったことがないわけじゃないけど、こんな本格的なショップに入ったことはないし、買っても面倒で結局つけなくなるからもうずいぶん買っていない。
だから、買ったことないと言っても過言ではないのだ。
「そうか、忘れてたな。でも、初めて買ってやるアクセサリーが結婚指輪っていうのもいいかもな」
「えっ。……えっ?」
サラッと重要な発言をされた気がして、彼の横顔を思わず二度見してしまう。
も、もしかしてこのお店に来た目的って……。
「遅くなって悪い。籍入れる事にばっかり気をとられて大事な指輪を用意してなかったって、最近になって気づいたんだ」
灯也さんはそう言って、ばつが悪そうに笑った。
そっか……結婚には指輪がつきもの……! ようやく気付いた私の表情が、ぱああっと輝く。