副社長は花嫁教育にご執心
第五章
理想の夫婦
月曜日の出勤前。
私は自転車で出勤しようとしていたのだど、ちょうど同じ時間に出る予定だったらしい灯也さんに、“病み上がりで心配だから”と、車で送ってもらえることになった。
……灯也さん、結構過保護なところがあるみたい。
「もうすっかり元気だから自転車でも大丈夫ですよ?」
助手席でそう言ってみたけど、すぐに却下されてしまった。
「ダメだ。お前さ、今日仕事で大事なことがあるの忘れてない?」
「大事なこと……?」
なんだっけ。今月は忙しすぎて、全部の予定を把握できているかと言われたら、自信をもって首を縦に振れない。
「夕方、宴会入ってるだろ。黒川会長ご夫妻の金婚式。その祝いの席で倒れられたらたまらないからな」
「あっ! そうでした!」
設楽ホテルズグループと長年懇意にしている黒川商事の会長、黒川氏とその奥様の鈴子(すずこ)さんが、結婚五十周年を迎える記念に、我らが【Crystal Ocean】に遊びに来てくれるそうなのだ。
昼間はのんびりスパを楽しんでもらい、夕方にはお二人のために特別に用意した個室で、椿庵の料理長が腕を振るった豪華な会席料理をお出しする予定になっている。