副社長は花嫁教育にご執心
私は灯也さんに指摘されるまで、宴会の予定をまるっきり忘れていたことに気付く。
やばい……たぶん、色ボケやら旅行ボケやらとにかくボケボケだったんだ。
しかも、その宴会担当者は、他でもない私なのに。
「よかったです……早めに灯也さんに思い出させてもらえて。宴会料理の、内容とか出すタイミングとか厨房とよく打ち合わせしないと」
「ああ、頑張れよ。担当がまつりなら大丈夫だと思うけど、くれぐれも会長に失礼のないようにな」
「はいっ」
気を引き締めて返事をし、車が職場に近づいていくにつれ私は徐々に気持ちを仕事モードに切り替えていった。
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「会長の奥様は、そばアレルギー。食材に限らず、調理器具の衛生管理を徹底……。お二人ともお酒は飲まれないので、最初にソフトドリンクの注文を確認。会長は腰が悪いので、座椅子を用意ね……ふむふむ」
椿庵のバックヤード。そのホワイトボードに貼られた宴会伝票を確認しながら、私は自分用にメモを取った。
宴会伝票は、予約を取ったフロントの者が記載して、それが椿庵に回ってくる。
お客様ごとに様々な要望があって、それを見落とすことがないようにしなければならない。
特に注意すべきなのは食物アレルギーで、お客様の体に何かあってからでは遅いので、いつも細心の注意を払っている。