副社長は花嫁教育にご執心
ちなみに、今日の宴会のスタートは16時から。担当者である私は、その時間まで普段どおりのホールの仕事をこなしながら宴会の準備を並行して行うことになっていて、ちょっと忙しない。
「料理長、今日の宴会料理どんな感じですか?」
宴会が始まる一時間前にもなると。最終確認もかねて、厨房の料理長の元へ挨拶に行った。
以前、天ぷら御膳二十人前の件では迷惑をかけてしまったけれど、今日はそんなことにならないように、しっかり相談しないとね。
「おお、もうバッチリよ。黒川会長に粗相があったら、支配人の顔に泥を塗っちまうことになるからな。最後の寿司まで気合入れて握るよ」
「はいっ。お願いします」
料理長の言葉で、改めて自分の担当するお客様の“VIP度”を思い知らされ、緊張感が増してくる。
黒川商事というのは主に不動産の賃貸や売買、そして土地開発事業を行っている会社で、この【Crystal Ocean】を現在の土地に作ろうとなった際にも、黒川商事には多大な協力と援助を受けたそうだ。
そんな大事なお客様じゃ、今日ばかりはうっかりミスをやらかさないようにしないと……いや、そんな低い目標じゃだめだ。
大切な金婚式の日。黒川会長ご夫妻に“来てよかった”って心から思えってもらえるような、おもてなしができなきゃ――。