オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)
「すっごいホコリだな……」


成久がテーブルの上を指でなぞると、一筋の道が出来た。

でも、普段歩く床の上はキチンと掃除されてる。

リビングだけが、いつからそのままなんだろう、時間が止まっている。

磨き上げられたフローリングを辿っていくと、廊下の突き当たりの部屋に着いた。

ドアが…開いてる。

でも……

花美はいなかった。

花美の甘いにおいが残った部屋。

ついさっきまで、抱きしめていたはずなのに、なんだか無性に遠く感じる。


『…趣味?…ぬいぐるみ…集めることかなぁ……』


そう言っていたとおり、部屋中ぬいぐるみだらけで、足の踏み場もない。

散らかっているわけじゃない。

沢山のぬいぐるみが、キレイに、大切に並べられてんだけど、数がハンパない。

特にベッドの上。

いつもどこで寝てんだ?って、思うほど敷き詰められている。

枕もとの一番そばに、古びたクマのぬいぐるみが二匹並んで寝てた。

ブルーとピンク。

よくみると、部屋の中のぬいぐるみは全部ペアになってる。


男の子と、女の子。

…パパと、ママ……?


ぬいぐるみだらけのテーブルの上に、1枚だけ、家族写真が飾られていた。


――花美……?


一瞬、そう思うほど、写真の中の母親は花美に似てる。

逆だな。

花美が母親似なのか……


濃紺の地に大きな白ゆりが染められた浴衣を着て、微笑んでいる。

花美より髪の色は明るくて、オトナっぽい。

違うのはそれくらい。

だから、肩を抱いて写ってる浴衣姿のオトコが、花美の父親だとわかっていても、意味もなくムカツいた。


――だってスゲー、イケメンだし……


その真ん中に挟まれるように、小さい花美が写ってる。

小学生くらい。

茜地に大輪の朝顔を咲かせた浴衣を着て、それが霞むほど、輝くばかりの笑みを咲かせてる。


「…オイ…」


写真のなかの……


「そこのオンナ!突っ立ってねぇで、どういうことか説明しろっ…!!」


花美の笑顔から目が離せない。


「…うるさい」


視線を上げると、

リビングからこぼれる明かりを受けながら……

オンナがゆっくり振り返った。

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