オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)
どれくらいの時間だったんだろう、誰もその場から動けなかった。

優華は、さっきの勢いは何処へ行ったのか、不安そうに黙って床の上に座っている。


「ちょっと悪い…、電話だ」


成久のスマホが静寂を破る。

応答しながら部屋を出る、その姿を目で追いながら、ふと視線を落としたその先に、何かが光ってるのに気付いた。

優華が蹴り上げたぬいぐるみの下に、貝殻が落ちている。


“なに、持ってんの?”

“貝殻拾った”


うれしそうに話していた、花美の姿が、いとも簡単によみがえる。

オレに話した通りキレイに洗って飾ってあったのか、小さなガラスのトレイと一緒にひっくり返っていた。

意図せず花美の帰りを3人で待つことになったけど、結局わかったのは、花美は戻ってこないということだけだ。


――クソッ…


無言で部屋を出る。

そのまま街に出て、あてもなく花美を探した。

見つかるワケなんかないって、わかってる。

わかってるけど……


――じっとなんか、してらんねぇ……

――心配でおかしくなりそうだ。


一晩中歩き回って、さすがに限界だった。

そろそろ東の空が明るい。

ベンチに腰かけると、天を仰いで目を閉じた。


――自分の迂闊さに、吐気がする。


「…佐々、取りあえず今のところ、オンナ絡みのトラブルは起きていないみたいだから、ひとまず帰れ」

「……」


その声で、成久の存在を思い出す。

一緒にいたことすら、すっかうっかり意識の外だった。

ヤバいな…、かなりキてる……


「何かわかったら、すぐ連絡してやるから」

「悪りぃ…、ありがとな…」


情報収集は成久の得意分野だ。

さっきの電話といい、花美の件で動いてくれてるんだろう。


「……お前こそ、もう帰れ、成久」

「わかったよ。でも、お前も…」

「頼むからさ、……悪りぃ、一人にしてくんねぇ?」

「……学校、来いよ?佐々、いいなっ!?」


見ないまま、軽く手だけをあげると、

成久の気配が遠く離れた。


薄目を開けると、

視線の先に、朝焼けに染められた交差点が見える。

花美と会った日の夕暮れ時みたいだ。

茜色。


「…花美…、あのバカ…、どこにいったんだ」


この日を最後に、花美は消えた。

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