オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)
「その…、余計なお世話かもしれないけど、私、ユリさんと藤堂さんが二人並んでいるのスキ。だから、やっぱりちゃんと話し合って欲しいんだぁ。だって、ユリさん今、言ってたでしょ?“もういい”って…でも、それ、全然よくないって、私、知ってるから」
ユリさんは私を見つめたまま、黙って聞いてくれてる。
「だって、私もね、よく使うんだその言葉、“もういい”って……でもね、今思えば本当にソレでよかったコトなんて1っコもなかったよ?」
いろんなことから逃げてきた。
今までずっと……
だから、私なんにもないの。
友達とか、
恋人とか、
やりたいことや、
……夢。
信頼や、
自信も……
人がね、怖くてもきちんと向き合って、手に入れてこなくちゃいけなかったもの、
私は何にも持ってない……
「……私も、“もういい”って逃げてきたの。でも、帰るから。私も、がんばるから」
「Hなんてがんばってするもんじゃないよ?」
「違う。Hのことじゃない。他にやり残してきたことがあるの」
大きく一つため息をつくと、ユリさんは観念したとばかりにつぶやいた。
「……そっか……でも、カラダを重ねてわかることも……あるかな……」
ユリさんは、私の手からキーを受け取ると、
「……籐堂と、ちゃんと会って話てみるよ……」
そう言って、愛しげに、しばらく手のひらにあるそのカギを見つめてから、
アパートの階段を下りて行った。
しばらくすると、静寂の中、あまりフかさないように気遣った、控えめな排気音が階下できこえる。
細く、長く、その音色を伸ばし、再び静寂に消えた。
私は、おもむろに立上がり、軽く身支度を整える。
佐々くんのお母さまにもらったワンピースは目立ちすぎるので、制服に袖を通した。
一度玄関で立ち止まり、室内を見渡す。
お辞儀をして合鍵をかける。
鍵は新聞受けの口から中に落とした。