オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)

自宅のマンションは、入り口の門からちょっとした中庭みたいになってる。

薄暗いライトに照らされる木々や、草花の茂みを縫うように敷き詰められたレンガ敷きの通路の先に、建物自体の玄関がある。

その、オートロックの自動ドアの前に、私達は立っていた。


「花美、スマホ出して」

「?…う、うん」


言われるがままに差し出すと、あっという間に個人情報の交換が終わってた。

ラインも登録済み。

どうやって、やったんだろ?

私のセキュリティーって、どおなってんの?

あっけにとられて、自分の手のひらに戻されたスマホを眺めてると、

真上から佐々くんの、今日、何度目かの深いため息が聞こえてきた。


「…つくづく…危ねぇ…」


そこから、しばしのお説教タイム。

簡単に自宅バレとかありえないとか、スマホを簡単に人に触らせるなとか、なんだかいっぱい言われ過ぎて、正直あんまり覚えられません。

でも、私だって誰にでも家まで送ってもらうわけじゃないし、そこそこ人を見る目はあるつもり。

佐々くんだから…なんだけど、それを言うと、さらにお説教が長くなりそうだから黙っておいた。


佐々くんは、ひと通り私に対して苦情を言いきると、

エントランスの壁にもたれかかりながら、疲れた表情で天井を仰いだ。


「…佐々くん?」


壁にもたれかかったまま、佐々くんは姿勢は変えない。

目線だけを私のほうに動かす。


「ん…?」


低い声が、穏やかに響いた。

そおいう、返事の仕方は良くないと思う。


“甘えていいよ”


って、言われてるみたいで、オンナの子は誤解すると思うんだ。

私は深呼吸する。

気を取り直して、耳に残る佐々くんの声を振りきるように訊いた。


「あ、あのね?…その、シてくれるって、ホント?」

「……ああ、だから他のオトコに声かけんじゃねぇぞ」

「……う、うん」


佐々くんはイタズラ気に笑うと、覗き込むように顔を近づける。

鼻と鼻がこすれるほど、近くで止まる。

キスの距離……


ビクンッ!!


私の体が、金縛りのように固まる。


「なんもしねぇよ…?…まだ」


佐々くんは余裕の笑顔。

< 30 / 229 >

この作品をシェア

pagetop