オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)
改札を抜けると、もう風の匂いが違ってた。


「どこいくの!?佐々くん…っ」

「時間もねぇし、せっかく来たから海…」

「どおしよう、ねえ、デートってなにすんのお!?」

「……」


少しだけ、分かってきた。

派手で遊んでるっぽい見かけや、とんでもない行動に目を奪われがちだけれど、花美は意外と真面目だ。

“なんで”とか“どおして”とか、けっこう理屈っぽいし、さっきも、“人が見てるから離れて” とか、常識的な所がある。

そんな女、オレの周りにはあんまりいなかったからな。

今朝だって、学校には遅刻しないで行った。

そして、


「…あ!海だあっ!!」

「走んなって、おい!」


もう、歩道脇の堤防の階段を駆け下りて、砂浜まで降りてる。


――意外と足だけは速いんだよな、どんくさいわりに…


「きゃあ!」


言ってるそばから、花美の靴に思いっきり波がかかってる。


「波打ちぎわ、ギリギリ歩きすぎ、何やってんだよ…」

「靴、濡れちゃったぁ」


うれしそうに笑う。

よくわかんねぇけど、花美が楽しそうだからいいや。


今週末からは夏休みに入る。

ここら辺は海水浴場になるから、海の家の準備中なのか、思った以上に人がいた。

オレは堤防を下りたところで階段に腰かけて、しばらく花美の様子を見てた。

水平線に夕日が半分ほど沈みかけている。

砂浜に落ちる、濃く長い影の足元に、花美がいる。

キラキラと輝く波打ち際を、入り日陰を受けながら花美の茶色の髪が風になびく。

靴はもう諦めたのか、バシャバシャ海水の中を歩きながら、何かを探しているみたいだった。

時々しゃがみこんでは、海水に手を入れて水をすくってのぞき込む。


――キレイだな…


花美を、最初に見た時の感覚が甦る。
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