イン aa ドリーム【】
「いいって、もしかしたら人に酔ったのかもね。
治って良かったよー」



たー子の優しさが、心に刺さって痛い。

さらに、まだ付き合わせるのだから尚更痛い。

だが、やるしかないのだ。



「あれ?」



私は、たー子に背を向け屈み込み、停留場のベンチの下に手を入れた。

その手には、今しがた鞄から取り出した、小銭入れを握って。



「落とし物かな?」


中を開くと、硬貨がごっそり入っている。


というか、私が入れた。


空の財布なら、落とし主が気づくかもしれない見えるところ、例えばベンチに、置いていこうという話になるかもしれない。
そうならないように入れたのだ。全ては交番に行くための予防策。


殆ど1円玉だから、総額100円くらいなのだが、お金は大事に使いなさいとお祖母ちゃんに言われて育ってきた手前、正直、お金を入れながら複雑な気持ちも一緒に詰めていた。


しかし、こんなことしか思い付かなかったのだから、しょうがない。


それに、100円で人の命が救えるなら安いもんだ。


いや、安過ぎる。


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