イン aa ドリーム【】
後ろの男が動く気配がした。


たー子に近づく気配が。


私も空かさず、たー子にずいと近づく。


「ねー、彼氏ー?」


返信している相手が誰かなんて、知りたかったわけじゃない。

あいつに怪しまれないためだ。



「いないの知ってるくせに。」



脇腹に、たーこの軽めのチョップが入る。



「知らない間に出来たのかな~って。」


「出来たら、あー子には速攻で言ってるから。」



返信し終わったようで、たー子はスマホをバッグに仕舞う。



「ですよね~」



バスがブレーキを掛けると、男はよろめくように元の位置に戻った。


どうやら諦めてくれたらしい。


胸の中で密かに溜め息を吐いたとき、ふと、目の前に座る男性が持つ新聞に、目が止まった。


こちらに向けている紙面に知っている名前を見つけたからだ。



『佐藤和子』



その名前は、誰もが一度は聞いたことのある小説家で、書いた本はいくつもドラマや映画になっている。

一見本名のような名前だが、ペンネームであり、本名の方がよっぽどペンネームっぽいということは、公には知られていない。


「たー子のお姉ちゃんの新作、この前テレビで特集されてたね。」


「あっ、私も見た。」

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