夜の帳
「とりあえず、瓶ビール。

サッポロ生黒ラベルを2本、

春巻きに麻婆豆腐、イカの

オイスターソース炒め。」


それだけ注文すると女は


こちらに視線を寄越し、


一応同意を求めると、


席をはずした。


エンジ色のスェード地に


袖なしのチャイナドレスを


着たウェィトレスを


値踏みして頷くと


彼女は端末を見ながら


本物の発音でオーダーを


繰り返した。


この老舗の中華料理店も


数年前から名古屋市内と


その近郊に数店のチェーン


展開をして以来、ファミリー


レストランの雰囲気を漂わ


せるようになって来ていた。


遠目に化粧室から戻って


くる女の補正下着で矯正


した十数年前と変わらない


スタイルとそれを包む


チャイナドレスは、


中国人留学生のアルバイト


のお仕着せとは違い


風格をも感じさせた。
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