夜の帳
体中が粘つく、ふとした


拍子に汗ばんで乾いた


シャツの胸元から


体臭が立ち上ってくる。


酒のせいで、膨らみき


った下っ腹に食い込ん


だベルトがむず痒い。


気づくと、18時間以上


蒸された足の親指と


人差し指を靴の中で


こすり合わせている。


数年前に半年間飲み続


けた内服薬で40年来


の水虫は完治している


はずだが、酔った時の癖だ。


付き合った時間が長けれ


ば長いだけ、染み付いた


感触は記憶の奥底に埋もれ、


ふとした拍子に好意的な


懐かしさを伴って顔を


覗かせる。


腕や足を失った者は、


そこにあたかも失った


腕や足があるといった


感触に長い間苦しむと


言うが、酔いによって解放


された無意識が懐かしい


感触を探しているのだろう。


「カッパちゃん、今日は

ありがとうね。」


待ち焦がれた請求書が


やっと手元に届いた。
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