運命じゃない恋




ああ、今日も来ている。

躍動的な視界の端にひっそり静を見せる気配にそんな意識を一瞬。

一瞬後には目の前で攻撃色を見せ、鋭く拳を向けて来ている相手に容赦のない振り切りで腹部に膝をめり込ませる。

その刹那に相手の苦痛から漏れる耳障りな声と息遣いが聴覚を擽り、それすらも不快だと更に頬に肘を振り切り地面に沈めた。

血が滾る。

高揚して、熱を持って……すぐに冷静を通り越すような無の極致。

虚しい虚しい虚しい。

それでもこの儚く刹那の恍惚感を得る為に同じことを繰り返す俺がいる。

今日の相手は3人だったか。

地面に潰れているのは2名、確かに3人潰した記憶から一人は隙を見て逃げたのだろう。

後の2人は未だ痛みに悶絶し、先程腹部に蹴り込んだ奴は嗚咽と一緒に汚物を吐き散らかしている。

それを冷めた感じに見下ろす俺だとて無傷なわけでもなく、ズキズキと痛む口の端に指先を走らせればヌルリとした赤が付着した。

腕には向けられたナイフの切っ先が薄く切り裂いた赤い一線。

この程度なら痕にも残らないだろうと、小さく息を吐くとその場を去るつもりで足を動かし始めた。

「玄斗(くろと)」

……ああ、忘れていた。

そう言えば居たんだったな……今日も。


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