運命じゃない恋
万を持して。
やっとこの瞬間だと言わんばかりに凛とした声で俺の名を呼んできた姿に足を止めるでもなく、最早溜め息すら漏らすのも面倒だと振り返りもせずに歩数を増やす。
そんな背後からテテテっと小走りで近づいて来る気配が靴音響かせ距離を詰め、それでも決して隣並ぶことはなく背後で一定の距離を保って歩調を合わせてくるのだ。
「玄斗、けーが、」
「………」
「ちゃんと救急セット持参してきたから手当しようね」
「………ウザい」
「……懐かれるのすきでしょ?」
こちらとしてはその一言に嫌悪と威圧をありったけ込めて音を発したつもりであるというのに、そんな一言に怯むような気配などまるで見せず、むしろ『フフッ』と楽し気な笑いを漏らしながら尚も靴音近くについてくる。
本当に何なんだ。
毎日毎日鬱陶しい。
懐かれるのが好き?
好きなわけねぇだろ。
むしろ、関わってくれるな。
そんな心の葛藤も連日日課となりつつあって、日々蓄積される苛立ちも余裕という器から溢れだすギリギリ。
……ああ、いや……限界だったか。
そう自分で理解したのは静かな夜の空気に大きく響いた自分の舌打ちと、瞬発的に振り返り鬱陶しい奴の顎を掴んだ瞬間だ。