嘘つきお嬢様は、愛を希う
▽惑
怖くない
ただ、逃げ出したかった。
一言で理由を述べるとするなら、きっとそれしかない。
ひんやりと頬を撫でる冷たい風に、私はぶるっと身体を震わせる。
11月に入ったばかりだというのに、外の世界はひどく寒く感じられた。
気温よりもずっと冷えきっているような気がするのは、私の心の問題かもしれない。
「我ながら、ちょっと無鉄砲すぎたかな」
コートを襟元にたぐり寄せながら、日が落ちはじめた空を見上げる。
与えられた猶予は決して多くはない。
残り時間を考えると、一刻も早く目的の場所に辿りついた方が良いだろう。
そして目的を達成したあかつきには──そのまま逃げてしまうのもありかも。
誰にも見つからないずっとずっと遠く。
あの人の手の届かないところへ。
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