嘘つきお嬢様は、愛を希う
こんな天使みたいな人が、かつての胡蝶蘭の華だったというのだから、世の中あまりに謎が多すぎる。
思わず小さく笑ってしまいながら、大丈夫です、と私は目を細めた。
「……サリ、行くよ」
特に声はかけず、どこか難しそうな顔で先に階段をおりていた雅さんが振り返る。
サリさんが「あぁうん」と答えながら、私に手を振った。
「桐乃ちゃん、また今度改めてお茶でもしよう」
「は、はい」
「──あまり、思い詰めすぎないでね」
「……はい」
でも、それでも、強さなんてものは目に見えない。
──ねえ、サリさん。
その小さな背中に心の中で問いかける。
──幸せに、犠牲は必要だと思いますか?
それに答えるように、階段を降りたサリさんがちらりと振り返って笑った。
否定なのか、肯定なのか、私にはわからない。
けれどきっと彼女ならこういうのだろうなと思った。