嘘つきお嬢様は、愛を希う
「足止めにもなってねえな」
「ま、敵族の頭相手に萎縮しまくってたわねぇ。さすがに気の毒だったから、ちょこっと相手して追い返したわよ」
なんでもないことのように言う瀬良を、風汰が横目で見ながら苦い顔をする。
この反応を見るに、俺が正面だけぶっ飛ばして飛び出した後、いつも通り『男』の瀬良に変化したんだろう。
味方だから良いものの、本音を言えば敵にしたくないタイプだ。
絶対に、どう考えてもこいつを相手にしたら調子が狂う。
「まぁくだらねーことはいい。俺が気になったのは桐乃に手ぇ出した男のことだ」
「あぁ、なんか変な喋り方してたやつっすね」
そう、思い出すだけでも吐き気を及ぼす気色悪いヤツ。
アレは……。
「──恐らく、龍靭の元総長だね」
俺が言葉を紡ぐ前に、腕を組んで壁に寄りかかっていた雅さんが静かに口を開く。
天馬と風汰、瀬良はやや引っかかったような顔で眉根を寄せたが、ひとり櫂さんだけは苛立ったように舌打ちをかました。