嘘つきお嬢様は、愛を希う


かつて現役だった時、この男はこんな顔をしながら周囲に悪魔とまで言われていた。


この世界でそう恐れられるほどの人間は早々いやしない。


残忍で、残酷で、冷淡極まりない者たちが、己の欲求のために平気で相手を傷つけにくる世界なのだ。



「……あんたが言いたいことはよくわかるけどな」



天馬に反応するなと視線を送りながら、俺は真っ向に雅さんに向き直る。



「たとえあのチビがどんなやつでも、こうなった以上は胡蝶蘭が守る義務がある。あいつがこっちの世界とは何の関係もない"ただの女"であればこそ、尚更だ」


「……胡蝶蘭が、ね」



含み笑いで雅さんが櫂に視線を投げる。


それが何を指し示すかは明白だ。


十中八九、俺の知らないところで桐乃についての情報をやり取りしていたんだろう。
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