嘘つきお嬢様は、愛を希う
……まあ、そうだろうなとは思っていた。
櫂さんは現役の幹部でありながら、その根っこは今の胡蝶蘭ではなく雅さんがいた当時のまま。
櫂さんにとっての総長は、今でも雅さんひとり。
雅さんがこの世界から完全に足を洗わない限り、そのサポートをするのは自分の役目だと思っている。
だからこそ、他の幹部たちが揃って旅立ってからも、自らは幹部の名を退かず身を置き続けているのだ。
……まるで、公認スパイのように。
「ひとつだけ忠告しておく。──総長たるもの、私情で胡蝶蘭を滅ぼすんじゃねえぞ」
「…………」
まとっていた空気がガラリと変わる。
どす黒い、息さえままならなくなるような威圧。
瞳の奥に広がる深淵は、どんなものよりも闇深い。
"それ"のためならば、どんな事でもしてしまう危うい瞳。
これが悪魔と呼ばれる──雅さんの本性だ。