嘘つきお嬢様は、愛を希う
「……もう体は大丈夫なのか?」
石像のように硬直する私たちを見兼ねてか、珍しくお父さんの方から声をかけてくる。
そのことにすら驚きながら、私は曖昧に頷いた。
「体は、平気。もう少しで退院出来るみたいだし」
軽い低体温症と指先の凍傷。
矢倉に殴られた時の打撲が二箇所。
その後、冷えと疲れが祟って酷い高熱を出したけれど、それも病院ですぐに治療が出来たから大事にならずに済んだ。
もう少し治療が遅れていたら低体温症が進んで脳に異常が出たり、最悪命を落としていたかもしれないと言われたくらいだから、それなりの状態ではあったようだけれど。
「……来てくれるとは、思わなかった」
なんのために、とは聞けない。
ただわざわざこんな病室まで、自らの足を運んでくれたこと自体が衝撃だった。
食事と僅かな睡眠時以外は常に仕事に追われている人だ。
その激務の間になんの利益にもならない見舞いなんて無駄なことをするのは、性分じゃないはずなのに。