暴君と魔女
薄ぼんやりとした曙の寝室。
不意に覚醒したぼやけた視界にその姿を捉えて思わず息を飲んだ。
耳にか細く入り込む旋律がまだ眠り覚めやらぬ自分に心地良く絡みついてくるのに、どこか必死に目に見えない物と争ってみる。
そうする価値のある凄艶な美。
同じ皺の広がるシーツの上で体を起こし、俺の目には恐ろしく白く滑らかな素肌の背中を晒す姿。
そこに流れるフワリと細く軽い髪が更に幻想的な魅力を演出してきて。
触れたいと渇望する。
だけどこの一瞬が酷く綺麗で、崩す事が大罪であるかの様な芸術で。
美術館のそれの様に息を殺して見つめるにとどまった。
その旋律にゆっくり目蓋を閉じ小さく口の端を上げると、この程度であれば許されるかとシーツに皺を小さく広げ体を支えていた手に指先で触れた。
一瞬、、
小さな驚きの様な旋律の途絶え。
それでも目蓋を閉じたまま動きもせず待ってみれば、俺の意思を悟ったように再開されるささやかな旋律。
心地良さが走ったのは聴覚だけでなく触覚も、、
触れて気づかせた指先に今度は絡みついてくる温もりに満足し、しっかりと絡めてお互いの存在を確かめ合う。
夜中が熱情的である程、
夜明けは静かに幻想的に流れいく。
四季と迎える夜明けは穏やかでしがらみ全てから解放される瞬間だった。
「随分すっきりした顔してるのね」
「・・・別に変わらないですよ」
これみよがしに探るような目で覗き込んできた叔母を一目視線を移し、そしてすぐにパソコンの画面に戻していく。
動揺を見せた訳でもないのに、何かを読みとったと言いうような意地の悪さを口元に浮かべた彼女がふふん、と笑い顔上げた。