暴君と魔女
「・・・・随分と・・・愛想のない子供だな」
「秋光~、望様にご挨拶は~?」
目の前でまっすぐ表情を変える事もなく俺を見上げる子供を、俺も負けじと威嚇してしまう。
だけど子供のくせに引く事のない根性にどこか感心して、そっと手を伸ばすと頭をクシャリと撫でてみる。
瞬間、走って四季の後ろに逃げ隠れする子供。
おい、可愛くないな・・・。
それに対して四季が気を使ってなのか微笑んでくる事にも腹が立つ。
「なに同情してんだよ馬鹿女」
「望様、そろそろ四季って呼んで下さいませんか?」
「嫌ならまともな事言ってみろ」
「・・・・・望さま、」
「何だよ?」
「・・・・水難の相が出ています」
迂闊だった。
いつの間にかスッと切り替わっていた四季の目つき。
見透かしたようなその目で言葉を口にした後に、部屋の扉がノックされ使用人がその手に人数分のお茶を持って入りこむ。
そのタイミングで絨毯に僅かに寄っていた皺に足を取られた使用人が、その手に持っていた物を空にばらまく。
あっ・・・。
と、思ったのは遅く、その被害は見事命中し薄紅色の液体が見事俺の腕にかかってシャツに染みを広げる。
「熱っ・・・・」
「す、すみません!!」
慌てた使用人が必死に謝って俺にすがるのをすぐに忘れた。
【濡れた】腕を見てすぐに四季の言葉が頭を巡ったから。
水難の相・・・・か。
複雑な表情で四季を見つめれば、視線が絡んだ彼女がにっこりと微笑む。
くそっ・・・、文句が言えない。
「【四季】・・・今度からはいい事しか言うな」
無茶苦茶な要望を口にしたと自分でも思う。
でもホイホイという事をきくこの女なら丸めこめるかと思っていた。
なのに返された言葉は俺を見事言い包めて言葉を奪った。
「望様・・・・占うべきは悪い結果なのですよ」
俺が唯一彼女を称賛する眼と視線。
そりゃあそうだ・・・・。
占うべきは起り得る良き未来よりも、構えるべき悪い未来。
「四季・・・・お前に俺はどう見える?」
ニッと含みある表情でその答えを求める。
先見可能な女に自分の姿はどう映るのか・・・。
僅かな好奇心による興奮。