暴君と魔女
これは・・・・・新たな長所の発掘。
柔らかい旋律を響かせる彼女をベッドに身を倒したまま見つめる。
俺の横に座って英語でないその歌詞を口ずさむ彼女は綺麗だと称賛しよう。
ああ、馬鹿じゃないところも・・・ある・・じゃ・・。
「・・・さま・・・」
「望様っ・・・・・」
呼ばれた名前に閉じていた目蓋をゆっくりと開く。
だけど入りこんだ光にすぐにきつく目蓋をとじ、そしてすぐにまた開けた。
久々に感じる目覚めの倦怠感。
それに頭も働かずにぼうっとシーツの皺を見つめれば、再度響いた声で頭にはっきりと意思が戻る。
「望様~、朝ですよ~、お仕事大丈夫ですか~?」
「・・・っ・・・・」
勢いよくその体を起こして時間を確認する。
直後の落胆・・・。
まさに社長出勤・・・。
「おい、馬鹿女・・・教えておいてやる。11時は【朝】じゃねぇよ・・・・」
「すみません。あまりにぐっすりと寝込んでいらしたので」
悪びれもせず、むしろ微笑ましいと笑う彼女に頭を抱えて息を吐く。
この女・・・。
自分にとって善か悪か・・・吉か凶か。
だけど分かった事がある。
「四季・・・・お前俺の前で絶対歌うな・・・」
「それは、望様の体調次第でございます」
にっこりと微笑むこの女に複雑な睨みを返すとベッドを下りる。
寝室の扉に手をかけた瞬間に後ろから響く声。
「あっ、今日10時から取引する筈の会社は近々不渡りを出しますから」
その言葉に足を止めて振り返る。
相変わらず微笑む彼女はベッドに座ったまま俺を見つめた。
「だから・・・・安心して遅刻出勤なさいませ」
「・・・・馬鹿女・・・【四季】。特別手当だ、何か欲しい物はあるか?」
そう切り返せば彼女がパッと目を輝かせてそれを口にする。
「では、キッチンをくださいませ」
「・・・・何でまた・・・」
「勿論、望様や秋光に栄養をつけさせるためですよ」
そう言って近くで遊んでいる秋光に視線を走らせ微笑む姿。