暴君と魔女
「・・・・・お仕事では?」
「行きたくないな・・・」
「・・・・それは・・・子供の我儘の様ですよ」
いけません。と軽く叱咤するように眉根を寄せた四季に舌打ちすると、クスリと笑い俺の唇に軽いキスを与えてすぐに離れた。
何甘い事してくれてんだ?
余計に行きたくなくなるじゃないかと不満を心に抱くのに、そんな事知る由もないと微笑む四季が仕事を促す。
「ほらほら、今日もパンケーキを作って待っていますから」
「おい、何帰る気失せる事言ってるんだお前・・・」
「でも・・・帰っていらっしゃるでしょう?」
にっこりと微笑む姿がその言葉の語尾に「私のところに」と付け足していて、ムッと表情を歪ませるのに反した行動で四季の手を掴んで口元に持っていく。
左手の薬指にそっと唇を当て、まっすぐに四季の眼を見つめるとその指に見合った意味合いの約束を誓う。
「・・・・・お前に似合う指輪を用意する。・・・・どんなプロポーズがお好みだ?」
「・・・ふふっ、そこは聞いてしまうのですか?」
「安心しろ、お前が想像した以上のそれを再現する自信がある」
強気に返して微笑めば、少し考える風に視線を泳がせた四季がポツリ思い描いた理想を呟く。
「・・・・・雪が・・・・」
「・・・雪?」
「はい、私は名前が四季だというのにまだ降り積もる雪を見た事が無いんです」
「・・・・雪なんて寒くて冷たいだけだぞ」
「ふふっ、それすらも初体験の興奮で消えてしまいます」
子供の様にワクワクと期待を膨らませた目で俺を見つめる四季の頬に触れ、額を寄せると口の端をあげた。
「・・・分かった。何か考えておかないとな」
「楽しみにしています。・・・あ、それと・・・望様」
「・・・様付けかよ」
「・・・・慣れ親しんだ呼び方はそう簡単には・・・」
「わかったわかった・・・おいおいな・・・。で?なんだ?」
「・・・・・やっぱり、・・・お優しいと不気味です」
苦笑いで言ってのけた言葉に眉根を寄せ舌打ちをすると、添えていた手で四季の頬を軽く摘まむ。