暴君と魔女
「馬鹿女。御希望なら私生活でも暴君振りかざすぞ」
「ふふっ、それは無理です」
「あっ?」
「望様は・・・口ばっかりで私にはとても甘いですから」
しまった・・・勝てない。
思わず反論の言葉が出ず、うっ、と押し黙ってしまえば、勝ち誇ったように微笑む四季にこの先もずっとこうやって翻弄されるのかもしれないと思ってしまう。
尻に敷かれるって・・・こういうことだろうか?
「・・・さぁ、本当に遅れてしまいますよ?」
「っ・・・分かってる」
後ろ髪惹かれつつも四季の注告の通りに差し迫った時間。
腕時計を確認しながらようやく四季から離れベッドから立ち上がると入口に歩きだす。
朝から面倒な会議が入っていたな。と、うんざりしながら扉に手をかければ、後ろから響く声に足を止められた。
「望様・・・・・」
パッと振り返りその姿を見つめると、呼びとめたくせに言葉の続きを発せず、微笑んでいるかも微妙な表情でグレーを揺らす四季。
「・・・四季?」
疑問の響きで名前を呼べば静かに口の端をあげていく表情と姿が綺麗だと思う。
手に入れた・・・・愛おしい姿。
「・・・いってらっしゃいませ」
頬笑み言われ慣れた言葉が耳に響いて、なのに新しく聞こえるそれに口の端が自然と上がった。
そうして・・・・自然に零すその言葉。
「いってき・・ます?」
つい疑問形で返してしまった事に四季が軽く笑い、その姿を逆に俺が笑うと部屋を出て扉を閉めた。
カチャリと響いた扉の音に物悲しさを感じたのは何故だろう。
だけど一瞬の小さなその疑問はあっさり日常に掻き消されてしまって・・・。
後で悔やんで闇に沈む。
四季は・・・
出会った時から掴みどころがなくて、
変な女で、
傍にいるのにどこか遠くて、
その存在に持ち合わせる自由さに羨望した。
欲しくて堪らなくなって、
醜態をさらしてでも手に入れたくて、
その笑顔と言葉で
手に入れたと過信した。
俺は・・・・結局、
四季の愛を全ては理解していなかったんだ。