暴君と魔女
ぼんやりと、目の前で走りまわる秋光をベンチに座りながら見つめる。
子供は元気だな。と思い口の端をあげると、僅かに漏れた息が空気に冷やされ白く立ち上った。
寒い。
そうして見上げた空は厚い雲に覆われて、今にも何かが降ってくるのではないかと思ってしまう。
瞬間震えた体に反応してマフラーを口元まで引き上げると、視線を当てもなく周りに走らせその空間を視界に焼きつけた。
映るのは散歩などが目的であろうただの公園の広場で、遊具も何もないそこをそれでも楽しげに走りまわる秋光の姿。
元気に・・・・なったものだな。
秋光も、
・・・・・・・俺も。
お互いに・・・・
捨てられた傷に耐え抜いて・・・・・。
「・・・四季?」
暗い部屋に静かに響く自分の声が、その不安を煽り的中させる。
それでも信じたくないと人の気配のない部屋につきすすんでいたるところの扉を開けた。
期待して開けて、その暗い空間に落胆する。
それを繰り返すたびに心臓がその鼓動の速さをあげていき、言い様のない苦しさと焦りに表情が崩れた。
理解している癖にあがく感情が、もしかしたらとその姿を探す。
だけど無情にもつきつけられる現実に諦めて膝をついたのは、自分の家を余すことなく探した後だった。
不吉な旋律が鳴り響いたのは日も落ちた夕刻で、番号を確認すれば自宅のそれ。
滅多にないそのコールに眉根を寄せ、ざわりと背中に張り付く不安を感じながらそれに応答した。
その瞬間に耳に入りこんだのは使用人の声とその後ろで泣き続けている秋光の声。
状況が分からず更に疑問を強めたタイミングに伝えられたその事実。
『四季様がお帰りになりません』
やっぱり。
そう聞いた瞬間に思った自分に驚いた。
どこかで小さく予想していた自分がいたのだと、なのにその疑惑を奥に押し込め誤魔化していたんだ。
そうしたかったから。
信じたかったから。
四季は俺の傍からもう離れないと。
そう信じて・・・・、
あっさりその願望は打ち砕かれた。