暴君と魔女
なん・・・だ?
真っ白な意識に時々垣間見る様な光景。
ぼやけた視界に不安そうに覗きこむ秋光の顔。
とぎれとぎれに場面は変わって、耳に入る不可解な響き。
それが自分の名前だと判断するのに酷く時間がかかった。
その響きを耳に、視界に入りこんだのはひどく焦った姿。
この人のこんな姿は初めて見たとどこかで思い、すぐにまた真っ白な世界に戻ってしまった。
最後に見たのは取り乱した女神の姿。
どこだ?
ゆっくりと光を通した目に飛び込む景色。
白い天井をぼんやりと見つめ、ふわりと横から入る風に視線を動かした。
その途中で捉えた点滴や部屋の雰囲気でようやく気がつく。
ああ、病院・・・か?
それに気づくと力なく目蓋を閉じてゆっくりと息を吐く。
死ねたかと思ったのにな。
そんな感想を抱いた自分の思考に嘲笑を漏らし、再度目蓋を開けたタイミングに響く扉の開閉音。
意識を移すようにそちらを見つめれば、鞄に携帯をしまいながら部屋に入ってきた姿と不意に視線が絡んだ。
そして驚愕。
俺じゃなく、女神の・・・。
「っーーー望っ」
鞄にしまい損ねた携帯が床に落ち、鞄すら雑に床に落ちたのを捉えるより早く。
駆け寄った桐子さんが俺を抱きしめるのをただ静かに受けてみる。
相変わらず品のいい香りのする人だとどこかで思い、そして気づく。
「・・・・もしかして、俺をここに連れてきたのはあなたですか?」
俺の問いに反応し、スッと距離を離した女神がその眼に涙を潤ませるのを。
不思議な感覚にただ驚き、何に涙するのか疑問に思ってしまった。
「・・・・・何で?あなたが涙を?」
いたって真面目に聞いたつもりが、どうやら癇に障ったらしい俺の質問。
スッとその眉根に皺を寄せ、俺の両頬をグッと包むとまっすぐに鋭い視線が射抜いてきた。
「馬鹿なの!?可愛い甥っ子が死にそうになってたら泣くに決まってるでしょ!!」
甥っ【子】というほど・・・若くはないんだが。
そんな事を思いつつ、反論したら余計に反感を買いそうで押し黙ると、フンと鼻息荒く俺を一睨みした女神が非難の声をぶつけてくる。